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記憶の糸

近所の堤防を歩いていたら、ヨークシャーテリアがわたしの足元にぴょこぴょこと纏わりついてきた。
 
わーなんだなんだ、と戸惑っていたら、堤防の下から「ごめんなさーい」と声がした。赤い紐を持った老夫婦が、にこにことこちらを見上げていた。
 
ヨークシャーテリアを抱えて、堤防を下りていく。ご夫婦が手にしている赤い紐は、首輪ではなく前足と胴にかけるタイプのリードだったのだけれど、おふたりはその装着方法がよく解らないらしい。犬を飼ったことがないわたしが手伝って、なんとか問題は解決した。
 
旦那さんがリンちゃん(犬の名)を引いて、ゆっくりゆっくりとふたりは遠ざかってゆく。夕暮れの河原で、その仲睦まじい様子はまるでセピア色のチャーミーグリーン。

その光景を羨望のまなざしで見送りながら、わたしの心はいつまでももやもやしていた。ご夫婦の旦那さんの顔に、やけに覚えがあったのだ。けれど、旦那さんがわたしのことを意識している様子はなかったので、訊ねてみることはしなかった。でも、絶対知ってる。どこで会った人だろう。
 
考え考え歩きながら、やっぱり知ってる人に似ているというだけかなぁと諦めかけた時、ああああ!! おもいだした。
 
あの旦那さんは、わたしがかつて働いていた珈琲屋さんによく来ていたお客さんだ。
 
記憶の糸の先は網状に拡がっている。手繰ればそこに色々なものが引っかかってくる。
 
いつもカウンターのおんなじ場所に陣取っていた。普段はブレンドコーヒーだけど、月に1回だけウインナーコーヒーを頼む日があった。夏場にはアイスコーヒーにガムシロップをふたつ添えていた。「おねえちゃん、色白いなぁ。湯に入ったら薄く染まりそうなそそる肌やなぁ」とか言っては手を離さないような人だった。……あとはお察しください。
 
 
 
日頃の行いってあまり関係ないんだなぁとおもう。もしくは、あのおっさんが神様の死角にすっぽり嵌っているかだ。

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休み明けのハナウタ

うちの斜め下の部屋がリフォーム中なのだけれど、そこで作業している職人さん(一人で作業しているとおもわれる)のハナウタセレクトに心奪われる日々だ。
 
いちばん初めはQueenの「Don't stop me now」だった。唸る工具のモーター音にも負けないその熱唱ぶり。音楽業界が許せば、わたしが“日本のフレディ・マーキュリー”の称号を差し上げたい。誰があなたを止められようか。
 
季節が変わって窓を閉めることも多くなったせいか、そこまでの熱唱は聞かれなくなっていたものの、月曜日にごみをベランダでまとめている時に、仕事準備中の職人さんのハナウタがふんふん聞こえてくる。
 
あ。「Can't take my eyes off you」だ。きのう、「ジャージーボーイズ」観に行ったんかな。いいなぁ。
 
どうでしたかー? 映画面白かったですかー? って上から訊いてみたい気もするけど、絶対しない。サビ手前のフレーズの部分を♪タータ、タータ、タータタッタッタ、とサポートしたいけど、絶対しない。
 
ここ数週間の月曜日は、プリンセスプリンセスの「M」の率が高いのだけれど、職人さんはきっと「昨日のカレー、明日のパン」というドラマを観ているに違いない、とわたしはおもう。
 
ごみの袋をしばりながら、新しいごみ袋をごみ箱にセットしながら、テツコさんはどうなっちゃうんですかねー次最終回ですよ寂しいですねー、とか、心の中で職人さんに話しかけている。

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超短編読本

加楽幽明さん編集の「超短編の友 濃縮還元版」に「かみさま」という作品を掲載していただいています。
文学フリマ等でお求めいただけるとおもいます。“闇擽”さんです。
 
超短編をご存じない方にも楽しんでいただけるように……と作られた本です。
作家さんアンケートがついていて、個人的にはかなり興味津々で読みました。みんな、かっこいいなー。
 
そのアンケートを書くために、久し振りに自分の過去の作品ファイルを確かめてみたのですが、初期は原稿用紙の字がとても丁寧に書かれていて、年月とともに世俗の垢にまみれた自分を感じてしまいました。
変わっていないとおもっていても、確実に変わっているんだな。しかも、今回はちょっとだめなほう。
 
 
 
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というお知らせを、大阪文学フリマの後に書いていたのですが、ちゃんと公開できていなかったのです。
へんなタイミングになってすみません。
 

どうぞよろしくお願いします。
 

 

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