実家感
我が家はマンションで、いつもエントランスに管理人さんがいる。管理人さんは住み込みのご夫婦なのだけれど、もうずいぶん古いマンションなので、今の管理人さんは3代目だ。
1代目の管理人さんは、わたしも子供だったので、しょっちゅう押しかけては構ってもらっていた(業務妨害)。2代目は、うちが持ち回りでマンションの理事をしていたので、なんだかんだで交流があった。でも、3代目管理人さんは挨拶程度しか交わさないまま、数年が過ぎてしまった。
3代目管理人さんの人となりは全く知らない。就任当時から挨拶の圧がものすごくて、張りきっている方だ……という印象しかない。まぁ、でも最初だもん。そのうち落ち着くだろう、とおもっていたけど、そのテンションは未だほぼ健在で、おそらくそういう人なんだなぁ……と気づいた。
張りきりはマンションのそこかしこに現れていて、お花のプランターや季節の切り花が増え、住民同士の茶話会や趣味サークルのようなものができ、掲示物が色鉛筆やマーカーで華やかに彩られるようになった。もちろん、手描きのイラストを添えて……。
そういうものに行き当たるたびに、わたしはハッと胸を衝かれるような想いでいるのだけれど、ご近所はおろかうちの両親からも、とりたてて感想を聞いたことがない。是非に及ばずとでもいうのか。
かくいうわたしも、この状況がそこまで嫌だというわけではない。ないけれど、だ。
いつの間にかゴミ捨て場に『ごみステーション』と書かれたステンシルで花柄のお手製看板が掛かっている。管理事務所がそこそこ大きなレース編みの作品たちに覆われつつある。おお……、とおもう。このマンションは、加速度的に実家化している(事実、わたしにとっては実家だけど)。
そのうち、ドアノブカバーがついてしまうのではなかろうか。ビール瓶を芯にして、紙粘土で作られたお姫様人形が飾られるのではなかろうか。作りすぎたおかずがもらえるのではなかろうか。
昔のすこし殺風景な状態が好みだという気持ちと、どうせなら、エントランスホールの壁にパッチワークでも吊るそうぜ! という気持ちと――。
わたしの価値観が揺らいできているのも事実だ。
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