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ハイセンス

首を痛めて病院へ行く。

延々と待ち続け、しかし首を動かせないため本も読めず、すいたお腹を抱えながら待合室の椅子で灰になる。みんな苛々していて、看護師さんを呼び止めては「○○ですけど。あとどれくらい?」と、訊いたりしている。
 
甘い。ただ待つべし。
 
悟りがひらけそうな頃合いに、私の隣にいたおじさんとおばさんが仲良くなり、それぞれの症状を話し始めた。
 
おじさんは8月に膝の手術をするのだそうだ。スコープを入れてする手術で、5ミリほどの傷痕が2つだけしか残らないのだという。
 
ちょうど私の目の前に“関節鏡視下手術”のポスターが貼ってあって、ああこのことかぁ…とおもう。

ポスターにはラガーマンのイラストが描かれていて、「早くグラウンドに戻ってこいよ!」と笑っている。傍らには“Don't open 耳かき感覚”と煽り文句が。

わぁ、親しみやすい!

もっとポップに。もっとカジュアルに。さぁ、みんな気軽にレッツ手術!

歩み寄りの姿勢を表現しているのか。どちらかといえば、にじり寄られるような圧力を感じる。

そして、イラストのラガーマンにも耳かきさせてるけど、穴のないところをほじるのは、耳かきじゃないからね。

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蝉のくる家

蝉の鳴き声が減少中とされる昨今、わたしは穴場をしっている。
 
わたしの妹の家には庭がある。物置と物干し台があるだけの庭だが、地面にコンクリートを流していないため、毎年蝉が羽化しては息絶えてゆく。住宅地だが周辺に土がないため、妹の家は地域の蝉を一手に引き受けている。
 
角を曲がると、遠く聞こえていた蝉の声がわんと近くなる。さらに進むと、音の発生源が身内の家という衝撃。
 
門柱や網戸や庭木や、至るところに蝉の脱け殻がアクセサリーの如くついている。「10匹の羽化で、1匹か2匹は失敗するね」と無表情で妹は語る。わたしが、夏も始まったばかりなのに凄い脱け殻の数……と感心すると、当たり年はこんなもんじゃない、と弱く笑う。
 
毎年見知らぬ小学生が、蝉の脱け殻をくださいとチャイムを押すらしい。あいつら自転車で遠征してくるからね。口コミか。
 
妹の夢は、コンクリートで塗り固められた庭らしいが、そうなると、閉じ込められる幼虫の数たるや、物凄いものだろう。
 
蝉に祟られる可能性もある。
 
妹の家には、蝉の社交場として、末代まで頑張ってほしい。
 
大量の蝉の脱け殻が必要な方は、ご一報ください。

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あざみ姉妹

うちの母のすきな花はアザミだ。

季節になると、道端から1、2本いただいてくる。しかし、今年はあまり花の色がよくなかったらしい。母はがっかりしていた。

子供の頃、アザミを摘むのはわたしの役目だった。小学校にものすごく立派なアザミが群生していることに気付いた母に、頃合になるとハサミと新聞紙を持たされていた。

柵を乗り越えないといけないし、すぐそばには防空壕があるし、下校する児童が何事かと注目するしで心底嫌だった。どうしてこうも大人は子供の世界を軽んじるのか……! と涙したものだ。


先日、伯母の家に行ったところ、アザミと花の姿が似たベニバナが生けてあったので、その話をした。すると身を乗りだして、伯母が

「あたしもアザミすきやねん! 昔おじいさん(母と伯母の父親)が綺麗なところに連れてってくれてな……」

と語った。


なんとまぁ…。アザミが姉妹にとって、そんなに美しいおもいでに彩られた花であったとは……。あの頃の自分に喝をいれたい。四の五の言わずに採ってこんかい。

 

ならば姉妹のために、現在のわたしが行こうではないか。

わたしは母校を目指した。今年のアザミは綿毛になっているが、来シーズンに備えてのリサーチだ。

下校時刻が過ぎ、すでに校門は閉ざされていた。覗けるかな? と近づいた瞬間、けたたましい警告音が鳴り響いた。

エマージェンシー!!? ごめんごめんごめん、 なになになになに!?

腰が抜けそうになりながらも全速力で逃げた。なんなん? わたし、ただの卒業生やし!! アザミ欲しさに来ただけやし!!

 

来年のアザミをどうしてくれよう。穴場を探すか。それとも小学生を買収するか。

わたしは職場の方へのささやかなお礼や、友人へのご機嫌伺いに、ブラックサンダーを多用する傾向にあるのだが、小学生もすきかしら。ブラックサンダー。でも、小学生にブラックサンダーをばらまいた罪に問われたら大変だ。

もうこうなったらアザミ栽培に取り組むしかないのだろうか。いや、すべきことは心置きなくアザミを摘める世の中を考えるべきだよ……という啓示なのかもしれない。

 

とりあえず叫ぶ。

アザミと平和! アザミと平和!

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