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水溶性

 おはよう。母です。

 僕の枕元に座っていた女のひとは、確かにそう言った。近くの神社へお参りに行った翌日のことだ。

 御神水に浸すと溶けるという紙の願い符を、父は嬉しそうに2枚買った。でも、ふざけて僕の願い事を覗こうとするので、丸めてポケットへ突っこんだままになっていた。

 女のひとは、毎朝おはようを口にすると、あとは部屋の隅でぼうっとしている。たまに僕を観察しているみたいだ。

 おかあさんという存在は初めてなんだけれど、少し違う気がする。けれど色白だし、おばさんぽくないから悪くないのかもしれない。

 案外、頼めば色々としてくれるのかもな。そう考えて、僕はお風呂上がりに母の前に座った。ねぇ、髪の毛乾かしてよ。

 母は軽く首を傾げたあと、ふーっと息を吹きかけた。

 雑すぎるよ、と僕が怒って頭を振ると、水滴が激しく散った。攻撃をあびた母の全身に、みるみるうちに水玉模様のしみがひろがってゆく。

 溶け残った母も、僕の掌の汗で消えた。

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コメント

 こんばんはー。
 これいい。すごくいい。胸がきゅうう、と切なくなります。
 冷たいけれど暖かい、人の肌の温度をイメージしました。

投稿: 三里 | 2010年10月 3日 (日) 18時40分

三里さん

おこんばんは!
ありがとうございます!

これは「久しぶりにタイトル競作に参加するぞ!」とおもって書いたのですが、締め切りを30分くらい過ぎてしまったために送信する勇気がでなかった…。
頻繁に参加していた頃は、それくらいだったら気にしてなかったのに~(おい)

なるべく哀しくはしたくないなぁ、と考えていたので、人肌を感じていただけて嬉しいです。

投稿: タキガワ | 2010年10月 3日 (日) 23時29分

もったいなああああい!!!>たかだか30分オーバー

きっと勝てたのに…
ミネギシズムを忘るるなかれv

投稿: はやかつ | 2010年10月 6日 (水) 23時11分

はやかつさん

いやぁ、毎回格闘(?)されてる皆様に申し訳ないなぁというのもあって。
あとは単純に、書いてからすぐに読んでもらうというのが最近ちょっと恥ずかしいんですよね…。なんなんでしょ。

いよいよ競作で鍛え直さねば!…なのか?

投稿: タキガワ | 2010年10月 7日 (木) 22時39分

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