梅雨ごもり
雨が降った。昨日も降った。おとといも、その前も降った。
今朝、食事を摂りに台所へ向かうと、テーブルの上に父と兄のお茶碗がでていなかった。
フライパンに蓋をしながら、母が庭のほうを顎でさす。すでに葉ばかりになったツツジの茂みとおなじくらいの大きさの銀の繭がふたつ、転がっている。
ゆうべ寝入りばなに私が耳にした、サキサキサキという音は鋏だったのだ。
落下途中の雨の糸を長めに切りおとして紡いだ寝袋は、ひいやりとやわらかで、真夏の太陽でとことん蒸発されるまで破れない。
彼らはさっさと、こもってしまったのだ。堪え性がないくせに、毎年この時季だけは素早いひと達だ。
いつもより焦げ付いためだまやきをがりがりと剥がしながら、母が唇をゆがめて笑う。
冷夏ならいいわね。風邪ひいちゃえばいいのよ。
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コメント
ああ!
なんか巧く言えないけどこれすごく好き!
「母」の言動に静かな怒りというか、それを通り越した悲しみというか、そういう雰囲気を感じました。
投稿: 三里 | 2010年6月20日 (日) 10時15分
三里さん
ありがとうございます!
よその男のひとと暮らした経験はありませんが、もれなくそんな気持ちがついてくるであろうな…という。
今度は甘い想像をしたいです。
投稿: タキガワ | 2010年6月21日 (月) 01時40分
読めてよかった!
また時々書いてくださいな。よければ心臓のほうとかにも。
投稿: はやかつ | 2010年7月 1日 (木) 23時10分
はやかつさん
ありがとうございます!
ちょこちょこは書くのですが、アップし忘れて季節を逃すことが多いです…
500文字の心臓、今年は参加するぞ!という目標があるのですが、タイトルが難しい…。書き始めた頃は、自由に書くなんて無理~とおもっていたのに、不思議なものです。
投稿: タキガワ | 2010年7月 3日 (土) 21時29分