正しい利用法
もう暖かくなってきたので必要ないが、この冬はスリッパを履いていた。
表が青いスウェード地で、内側にボアが張られており、たいへん温かった。母が貰ってきたものの、サイズが合わずにわたしにくれたのだ。
うちは板の間がない家なので(廊下まで絨毯張り)、今までスリッパを履く習慣が誰にもなかった。お客さん用のものもない。
はじめてのスリッパの温かさは素晴らしい。こんなにいいものならもっと早く導入するべきだった…と、遅すぎた出会いに涙した。
ところが、父がわたしの目を盗んで、スリッパを履きだすようになったのだ。
それはわたしが出掛けている隙にということではない(実際はそういう時も履いているのかもしれないが)。例えば、わたしがホットカーペットの上に座った際や、トイレに入った瞬間など、わたしがスリッパを傍らに脱いだ折にすっと履く。
お、こんなところにスリッパが…という態で、履いているのである。
わたしだって、そんなことに目くじらを立てたくはない。けれどスリッパってそういうものじゃないでしょう?みんなで仲良くシェアしちゃうようなものではないでしょう?あれはわたしの、わたしだけのスリッパなんでしょう?
わたしはせつせつと訴えた。
その結果。
父は“断ってから履く”ようになった。
「おい、使ってへんねやったら貸してくれ~」
春を迎え、傷がふるくなったわたしは、ようやく振り返ることができる。
スリッパって、そういうもんだ、と。
冬。タキガワ家父娘にもたらされたスリッパは、たった数ヶ月間の使用とはおもえないほどのくたびれをみせている。
最近のコメント