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窒音

 どれほどの大音量でも音漏れしないイヤフォンを手にいれた。耳の穴に吸いつくように密着して、髪の毛いっぽんの隙間もない。

 一度、カラダじゅうを音楽でいっぱいにしたいと希ってきた。私はヴォリウムを最大まで上げる。

 鼓膜を跳ねた旋律は、てんでばらばらに散ってゆく。脳の皺に引っかかる。視神経をかすめる。胃袋に落ちる。臓器がそれぞれに震えだす。

 途切れることなく、聴き慣れた曲たちが耳から流し込まれてくる。臍の下まで溜まった音楽がたぷんと揺れる。踊るとシェイクされて酔いそうだ。圧のかかった下半身が膨れ、はちはちになって膝も曲げられない。

 体内に籠もった曲は混ざりあって渦を生み、みる間に音嵩を増す。鎖骨を超えた。じきに頭の天辺まで達するだろう。

 くる……くる…くる!

 今にもばしょんと弾けそうな私に、旧いラブソングが容赦なく注ぐ。

 多分最後になる曲は、残念ながら気分じゃなかった。

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超短編」カテゴリの記事

コメント

ごきげんよう、三里です。
この作品にいんすぱいあされました。@フル・アロマティック
よかったら読みにお越しくださいましー。

投稿: 三里 | 2009年11月 3日 (火) 21時47分

三里さん

拝読いたしました~。
コーヒーメーカーの、こぽこぽこぽ…ずじゅ~という音は幸福の音ですよね!
コーヒーは日常的に飲まないのですが。でもコーヒー豆売りをしていたこともあるので、ハンドドリップは得意です!

投稿: | 2009年11月 9日 (月) 16時34分

名前入れるの忘れました。

タキガワでした。

投稿: タキガワ | 2009年11月 9日 (月) 16時41分

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