窒音
どれほどの大音量でも音漏れしないイヤフォンを手にいれた。耳の穴に吸いつくように密着して、髪の毛いっぽんの隙間もない。
一度、カラダじゅうを音楽でいっぱいにしたいと希ってきた。私はヴォリウムを最大まで上げる。
鼓膜を跳ねた旋律は、てんでばらばらに散ってゆく。脳の皺に引っかかる。視神経をかすめる。胃袋に落ちる。臓器がそれぞれに震えだす。
途切れることなく、聴き慣れた曲たちが耳から流し込まれてくる。臍の下まで溜まった音楽がたぷんと揺れる。踊るとシェイクされて酔いそうだ。圧のかかった下半身が膨れ、はちはちになって膝も曲げられない。
体内に籠もった曲は混ざりあって渦を生み、みる間に音嵩を増す。鎖骨を超えた。じきに頭の天辺まで達するだろう。
くる……くる…くる!
今にもばしょんと弾けそうな私に、旧いラブソングが容赦なく注ぐ。
多分最後になる曲は、残念ながら気分じゃなかった。
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