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窒音

 どれほどの大音量でも音漏れしないイヤフォンを手にいれた。耳の穴に吸いつくように密着して、髪の毛いっぽんの隙間もない。

 一度、カラダじゅうを音楽でいっぱいにしたいと希ってきた。私はヴォリウムを最大まで上げる。

 鼓膜を跳ねた旋律は、てんでばらばらに散ってゆく。脳の皺に引っかかる。視神経をかすめる。胃袋に落ちる。臓器がそれぞれに震えだす。

 途切れることなく、聴き慣れた曲たちが耳から流し込まれてくる。臍の下まで溜まった音楽がたぷんと揺れる。踊るとシェイクされて酔いそうだ。圧のかかった下半身が膨れ、はちはちになって膝も曲げられない。

 体内に籠もった曲は混ざりあって渦を生み、みる間に音嵩を増す。鎖骨を超えた。じきに頭の天辺まで達するだろう。

 くる……くる…くる!

 今にもばしょんと弾けそうな私に、旧いラブソングが容赦なく注ぐ。

 多分最後になる曲は、残念ながら気分じゃなかった。

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狼煙を上げる

さて、「ファッションセンターしまむら」の手により、名実ともに田舎の称号を受けんとしているわたしの地元だが、今日近所の本屋さんに行くと、新刊のコーナーのいちばん目立つスペースに『超短編の世界(創英社)』があった!

しかも、vol.1とvol.2が各30冊はあった。

そばにある村上春樹の「1Q84」が霞んでいる。予想外の押しだされ感に軽く戸惑う。

街なかにある大きな書店でも、もうちょっとひっそりしていたのに。あまりに嬉しくて、携帯電話で写真を撮りたかったが、捕まるとまずいのでできなかった。

どうか、大事にしてもらえるひとたちのもとにお嫁にいけますように!

 

でも、どうして突然?その本屋さんは以前に日記で書いていた、新刊の入荷するタイミングがいまいち納得いかない本屋さんなのだが、そんなことを言ってしまって悪かったとおもった。(ありがとうございます)

もしかして近くに超短編書きのひとがいたらどうしよう。

 

誰ですかー?!

わたしの住むまちには、とりたてて目立つものはないですが、突然『超短編の世界』フェア(?)をはじめた本屋さんがあります。

一緒にここを超短編都市にしますかー?!


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言い逃れ不可

叔母が、わたしの家の近くに『ファッションセンターしまむら』ができるらしい…と教えてくれた。

わたしは中途半端に背が高いので、そういうお店の服は着られないことが多い。でも行ってみたいとおもっていたので嬉しい。


ただ、前から識っていたことではあったが、田舎の烙印を押されたようで、気持ちは複雑だ。

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未来のひと

わたしにはよく解らないが“めっちゃいい携帯電話”に変えたという友達が、メールアドレス変更のお知らせをくれた。

彼が、「お前はどうせふたつ折れケータイを使ってんだろ?」と鼻で笑う。
雷で打たれたかのような感覚に見舞われた。

10年ほど前に観た某芸人さんの未来の一言ネタで、“お前の携帯、まだパカパカしてんの?” というのがあったのだ!

当時は、パカパカ以上に現代的な携帯電話のデザインが想像できなかったが、あの頃の未来が今ここに!


でもわたしはまだまだパカパカする所存です。

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土地柄

どこどこの土地の女性は派手だとか、どこどこの土地の男性は頑固だとか、祖父母や両親から伝え聞いているようなご当地論があるが、血液型占いとかそういう類と一緒くたに考えていた。当てはまるような、違うような。

 

滋賀県の甲賀にある水口城跡に行った。

明治維新の後に廃城となったときに公売に付されて大半が処分されており、現在では石垣とお堀が残っている。その石垣の上(本丸跡)は水口高校の運動場になっていて、野球部が練習していた。

資料館に行こうとおもっていたのだが、入り口が解らず、結局お堀を丸一周することになった。

ひとりでてれてれ歩いてゆく。ひと気があまりない。途中の芝生のスペースで野球のユニフォームを着た男の子2人が、三角座りで向かい合い、お互いの足首をからめあってお喋りしていた。

犬の散歩をしている女性がいた。追い越されたり追い越したり。女性もわたしもお堀の亀をみたり、鯉をみたりするのでなかなか進まない。わたしよりも10歳ほど年上にみえる穏やかそうな女性だ。わたしたちがじーっと日向ぼっこの亀や野球部を見物したりしている最中、犬はずっとおとなしく座っていた。可愛い。

わたしが運動場の入り口にあった立て札を読んでいる間に、犬と女性は先に行ってしまったが、このあたりはソテツっぽい木が多いなぁ…とぼんやり歩を進めていると、女性が

「ちょっと…っ!ちょっと…っ!」

と囁き声をめいっぱい張って、手招きしていた。

すわ、と小走りで近付くと女性はちいさな双眼鏡を貸してくれた。

「カワセミが(羽を)パタパタしやる。綺麗な色や」

 

カワセミ観察の後、城の資料館に入ると奥から係りの女性が来て、お茶をくれた。説明ビデオをみたあと、一生懸命お城の説明をしてくださった。

帰りにわたしの町のことを訊かれたので少し話すと、「まぁぁぁぁ…」とすごく熱心に相槌を打ってくださる。先程のカワセミの女性といい、この方といい、穏やかそうで控えめにみえるのに、さりげなく熱いフレンドリーさが、水口市出身のわたしのお友達に似ていて驚いた。

水口はよい町だ。近江鉄道の切符も厚紙でできていて、大変にかわいい。

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あかるいね

 恋人の住まいに入るのは、はじめてだった。

 ベランダへ続くサッシに貼りついて夜景をみつめる私を、彼は笑った。窓辺の温度はすこし低くて身震いがきた。

 都心部から伸びる道路を辿る自動車の列が、循環する血液を連想させる。どこかを巡る電車の光が這い回る。

 恋人がぱちんと部屋の灯りを点けた。

 窓ガラスが鏡になり、疲れた頬をした<私>が閉じこもっている。

 ぱしぱしぱし。瞬きを繰り返す。ぱしぱしぱし。そんなわけはないのだが、瞼をあげるタイミングがずれている気がして、私はガラスに映った<私>を凝視する。

 ぱしぱしぱ。

 息がかかるほど近くで観察している私に、<私>はハッと動きをとめた。

 恋人の淹れるコーヒーの匂いが漂う。

 <私>は私にキスをした。かすかに唇の中央だけが触れあう。やわらかに。

 長い瞬きが徐々に醒める。<私>の背後の部屋の奥行きがやけに鮮明だ。カップを両手に恋人は、言葉を発する。私には聞こえない。

 恋人の膝になだれる<私>の姿を眺めていた。まるで満たされているようだ。

 

 

*******

三里アキラさん “創作家さんに10個のお題”より 『あかるいね』

 

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欲しい時が買い時です

150円(いざと言う時ののみもの代)だけ持って、父の買いものについて行った。

なんとなく、CDショップを覗いたら、毎回絶対買っているRIPSLYMEのDVDがあった。なんで?いつから君は売られていたんだ!!

わたしがRIPSLYMEをすきということは、周りの限られたひとにしか言っていない(似合わない、と言われるから)。しかももれなくそのひと達は、RIPSLYMEに興味がない。情報がやってくることはあり得ない。

RIPSLYMEは映像で観ないと気がすまないのだ。

どうしよう!現時点ではどうしようもない!また来なきゃ!隠したい!でもまだわたしのじゃないし!

しかもCDを買うお店はいつも決めていて、スタンプカードがいっぱいになったところなので、街にでないといけない。

どうか地球上の売り場からいなくならないで!RIPSLYMEのあたらしいDVDよ!

 

全然関係ない話だが、最近のケンタッキーフライドチキンのCMは、タレントさんの食すチキンが三角形の部位で、その一辺をひとくち齧ることによってハート型にしている。

わたしは昨年末の多部未華子ちゃんのCMで「かわいいひとが食べると、肉でさえもハート型になるんだなぁ…」とただ感心していたが、そのあとのCMもずっとそうだったので、カーネルが意図的に演出しているんだとおもう。

 

ショッピングモールの入り口で仰け反りながら貧血で倒れたわたしに、父がケンタッキーを買ってきてくれたので、お礼にそのことをお伝えした。

「けどな、誰に言っても聞いてもらえへんねん。気のせいやって言うねん」

肉を食らいながら力説するわたしに、父は沈黙の後答えた。

「…棒がいいで」

 

棒の部位がいいよね。

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流れ流れて

結婚した友人が、帰省したのでいっしょにごはんをたべた。その帰りに、やっぱり結婚した別の友人に偶然会った。

ごはんをたべた友人も、偶然会った友人も10年ほど前からの知り合いだ。今ではそんなに気軽に会える距離にいないので、嬉しくてとっ捕まえるほどのイキオイで掴みかかってしまった。

偶然会った友人は

「心理テスト」

と言った。

 

四文字熟語をひとつ、言って。

 

もうひとつ、四文字熟語を言って。

 

 

 

*******

わたしがおもいついたのは、「明鏡止水」と「我田引水」だった。

最初の四文字熟語が人生をあらわし、次の四文字熟語が恋愛をあらわすらしい。

 

ん?何かやったことあるような…、とおもっていたら、友人が

「10年前にも、タッキー(わたしのこと)にこれ訊いてん。ほんなら、“虎視眈々”と“七転八倒”ってゆってて、心配しててんやん」

 

がっつきつつも、苦しむ。確かに身がもちそうにない。

10年の時を経て、諦観の末にわたしは厚かましくなったのか。

 

「また10年後に訊いたげんなー」

といって、友人が手を振った。

10年後かぁ。現在よりも、遠いところに転がっている気がする。

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超短編の世界vol.2

創英社より、タカスギシンタロ監修「超短編の世界vol.2」発売中です。

2編載せていただけました。“はじまり”という作品は書下ろしです。

 

テーマが「笑い」なのですが、タイトルが決まっていて書く作品よりも、最終的な印象が限定されている方が書くのが難しい。わたしにとっては、ですけど。そして、どっちも難しいですけど。何なら自由に書けといわれるほうが難しいですけど。

結局あんたには何ができるんだ!と問い詰められれば、後ずさりするしかございません。けれども、超短編の神様にはもうちょっといさせてください…と平伏す日々です。すきですから。

そういうわけですので、「超短編の世界」をよろしくお願いいたします。

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おいしいもの

なんでも自分でやりたい時期の甥っ子(1歳5ヶ月)は、お手伝いされると嫌がって暴れだすので、おとなはただただ見守っているしかない。けれどもちろん、本人にも納得いかないことばかりで、やっぱり癇癪をおこしている。

手出しした時の彼の苛立ちが最も激しくなるのは食事どきで、おかずやごはん粒を投げたり、食器を投げたりしながらも、最後には結局、恐ろしいほどの量をたいらげる。

現在、胃をこわしているわたし以上の量をたべる。大丈夫か、ちびさんよ。

 

用意したごはんがすべてなくなり、皿に残った汁までなめたあと、それでももっと食べさせろ!と騒ぐので、チチヤス低糖ヨーグルトをだしてやった。(彼はプレーンヨーグルトは食べない)

チチヤス低糖は、彼の人生史上もっともおいしいものとされていて、他の食べものだと力ずくで奪ってくるくせに、チチヤスのときはちょっと違う。

チチヤスを、彼は自分で口に運ばない。自分でやると、全体の何パーセントかをこぼして無駄にすることを解っているのだ。

なるべく頭をうごかさないように、顎を心持ち上に向け、ぱかっと口をあけて待っている。

そして、チチヤスがはいってくると、目をうっすら閉じて舌を転がすようにして味わっている。周りのおとなはそれをみると絶対爆笑してしまうのだが、彼には聞こえない。

今、宇宙に存在するのは我とチチヤスのみ。

 

深遠な表情でチチヤスと対峙する甥。

彼がチチヤスのある日本に生まれてこられて本当によかったとおもう。

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うまい花

近頃みかけるコスモスが、昔ながらの白とかピンクでないものばかりで気になっていた。

ん?マリーゴールド?とおもって近付くと、大抵マリーゴールド色のコスモスで、何だか風情がないわねぇ…園芸界の流行りか?と、苦々しくおもっていた。

わたしはマリーゴールドがすきなのだ。花盛りのマリーゴールドの花は限りなくぼんち揚げに似ている。潜ませてぇ~、ぼんち揚げを。

 

この間から、妹が、自分の家に掛けるちいさい絵を描いてくれというので、四季の花材を探していた。するとアトリエの先生が

「黄色とオレンジのコスモスが庭に咲いてるわよ」

と分けてくださった。

あー、はいはい…あの偽ぼんちね…(注・マリーゴールドも決してぼんちではない)と、残念なテンションで下書きに入ると、なんだろう、次第に心をひらいてもいいような気持ちになってきた。

なんだか、あんた、花の中央がもふもふまるくて可愛いわね。

全然ぼんち揚げじゃないけど、まぁ、こつぶっこくらいの意識でいてもいいわ。

 

あんまりすききらいで目くじらを立てないようにしようとおもう。多分、無理だろうけど。

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H書房

うちから歩いて20分ほどの書店によく行く。本当はもっと近くに大きな書店があるのだが、品揃えがわるく(売れ筋の新刊でも何故か1ヶ月以上経ってからようやく入荷)、出版業界の事情もあるのかもしれないが、ついやきもきしてしまうため、あまり行かない。

H書房はちいさな商店街の本屋さんで、ちょっとマイナーめな作家さんの新刊が入らないのは近所の大きな書店と一緒なのだが、置いてある本が好みに合うのと、店員さんの対応がおそろしくよいので、つい行ってしまう。

店番はひとり体制で、昼間は大学生とおぼしき女の子、夕方以降は主婦っぽい女性がレジに立っている。夜遅くまで営業しているので、主婦さんのあともどなたかいらっしゃるとおもうのだが、その夜の時間帯のことは知らない。

ともかく、その女性2人の接客が、真似の仕様もないほどすごい。サービスマニュアルとしての接客となると減点対象になるかもしれない。そこまでお客様第一!のような雰囲気ではないので。だが、立ち振る舞いのすべてがあかるく、優しさに溢れていて、もうお人柄というしかない。

店に来るお客さんも、全体的に長居をしがちで、多分みんな店員さんのことがすきできているんだとおもう。一度、注文した本がなかなか届かないと怒鳴り散らしていたおじさんがいたが、店にいたお客さんが全員でおじさんを嫌な顔でじっとみていた。そして帰り際に「気にしたらあかんよ」的な励ましをしていくひともいた。

そんなH書房がポイントサービスをはじめたという。

正直、街なかの大きな書店で本を買うことの方が多いのだが、つい入会しますと言った。すると店員さん(主婦さんのほう)は

「嬉しいわ~!」

とちいさく手を打って喜んでくれた。

会計の短いあいだで6回は「嬉しい」と言ってくれた。

 

そうなのだ。H書房の店員さんの様子は、よくある「(買ってくれて)ありがとう」とか「お客様の感動が利益を生む」とかそういう大袈裟な匂いがあまりしなくて、かといって、「●●ちゃん、これ好きだろ?」みたいな地域密着型のノリではなく、なんだか、以前に旅先でうっかりお世話になることになった過疎の村のおばあさんに再会した時みたいなのだ。

そんな経験ないけど。

 

本を買った時の店員さんの嬉しそうな感じをおもいだしながら辿る帰り道は、にやにやしてしまうのだ。

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いつも会うひと

みられてはまずいときに、目撃されてしまうひとがいる。

マンションの同じ7階に住んでいるのであろう女の子(20代前半)なのだが、時間帯を問わず、わたしがひとに言えないことをしているときに会ってしまうのだ。

共用廊下に散らばった逆さまのかなぶんを片っ端から起こしているときとか、夕方景色をみながらぼーっとしているときなど、そういうときに必ずといっていいほど通りがかられる。

もっといえば、エキセントリック少年ボウイのうたをくちずさんでいるときや、鍵を忘れてうちに入れなくて、家族が帰って来るまで玄関先に座り込んで超短編を書いてる(しかも読み心地をととのえるために読み上げてる)ときに通る。

先日の十五夜のときも、満月をみるのを忘れていることを0時過ぎにおもいだし、寝間着姿で外にでて、ひとりで月見だんごを齧っているところで会釈された。

 

ところで、月にいち度マンションの自治会が発行している会報が今日届き、そのなかに“不審者が目撃されています”とあった。

わたしのことなんだろうか。

自分が不審でない自信がない。

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ほくろ伯母

右の手の甲に、目立つほくろがある。

ぷっくりしていて黒く、大きさは3ミリ×2ミリほどの楕円形。

なんだか少しずつ大きくなってきているような気がする。

 

このほくろは、大抵の知り合いに必ず指摘されるほどの存在感なのだが、1歳5ヶ月の甥っ子も、最近気付いてしまったらしい。

わたしに会うと、てーっと走りよってきて、左右の手をひっくり返してはほくろを探し、みつけ次第指差して「…んち」と言う。(んち、は虫の意)

自分、虫ついてんで!取りや!と言いたいのだろう。

わたしは結構ほくろが多いので、試しに他の適当なほくろを選んで甥っ子に

「これ何?」

と訊いてみても、彼は無視。手の甲のほくろをみせたときだけ「んち!んち!」と大騒ぎされる。

 

朝方(4時頃)、甥っ子が寝ているわたしに体当たりをしてくるので、何だよーと起きだすと、やっぱりわたしの手の甲を指して「んち~!」と叫んだ。

ちがうっつってんだよ。こんなとこで虫飼うわけねーだろうがよ。あんた、わたしが埋めてるとでもおもってんの?止むを得ず埋めるとしたらタマムシとかにするし。

 

このままでいくと、わたしは虫おばさんとして甥っ子の記憶に刻まれてしまう。

結構しょっちゅう、ほくろを取ろうかどうか悩んでいたのだが、時が来たのかもしれない。

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