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プラスティックロマンス

 我こそは恋愛の求道者である、と言い張る男と縁があった。なるほど、彼は行き届いていて、何かしらの贈りものを欠かさず、レディファーストで大変紳士的なのだった。

 男はキラキラしたものがすきで、高いところがすきだったので、私達は大抵そういうところへ行った。男と会うときにはいつも歩調がふらつく。それを見つめる男の目が私はすきで、より一層足元がゆるくなった。

 今夜もいつものように、まばゆい光に目を眩ませながら酔っ払う私に男が告げた。

 あなたは、僕があなたをあいしているから僕をすきになったのでしょう。

 そうかもしれない。夢見心地で私は答える。すこし微笑んでさえいたかもしれない。男は重くながいため息を吐いた。さようなら。

 ぴんとした男の背中を見送って、私は残されたグラスを綺麗に空ける。のみ下すたびに熱く喉にしみる。

 その道のひとでさえ、気付かなかった事なのだから、この私に解りようがない。

 お勘定をすませて、おもてへでる。泣きながら帰った。

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