別世界
名前をよばれた。衝かれたように息が詰まり、振り返るとやはりユウさんだった。
夜遅く、ともいえない時間だが、駅のホームはすでに人影が疎らだ。ユウさんが、食事にでも…と誘ってくれるのを想像するが、多分何も起こらない。なんとなく、最近の気候の話をする。
駅に沿って見下ろすように、私達の仕事場が建っている。真四角の、ガラス張りのビルだ。
ユウさんは、私とは逆方向の電車で帰るという。
脳天気な声のアナウンスがなって、私の乗るべき電車が滑り込んできた。明かりがビルに反射して眩い。突風でみだれた前髪の隙間からそれを見る。
「じゃあ」
かるく会釈しあって、私達は背を向けた。車内に入ってからユウさんをそっと探すと、ビルに映ったかがやく電車のなかで網棚をつかう、その後ろあたまが見えていた。
ユウさんの電車は、きらきらと光の帯を残し、引き返してゆく。
私は地面を這い、夜を進んでゆく。
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コメント
きらきらした画ですね。あーんど、センチメンタルロマンティック(?)な印象。好きです。
投稿: 三里 | 2009年5月 5日 (火) 11時01分
三里さん
ありがとうございます。これは、昨年末に東京へ行ったときに半分つくったものです。超短編の世界のイベントの日でした。
投稿: タキガワ | 2009年5月 6日 (水) 00時26分