コトノハムシ
恋人が書いては消し、書いては捨てを繰り返したという手紙が届いた。
ちりりと封をきると、なかから一匹の羽虫が飛びだしてきた。天井で羽を震わせ休んでいる。コトノハムシだ。
私の恋人は迂闊な質だ。急いで中身を確認したが、言葉はすでに喰い散らされていて、切れ切れに残るのみなのだった。
繊細に絡んだ名残を指先でそっと拡げると、ほわりほわりと宙に舞う。頬ずりするとほのぬくく、私の唇から笑いが洩れる。
私は早速、机に向かった。どこにも誰にも目を呉れないで、ずっとずっと離れないでいてください。
だが無理は書かずに、障りのない話ばかりを延々と認めた。
さりさりとした音を感じ、ふと見ると、下りてきていたコトノハムシが便箋に齧りついている。喰べ残しが荒縄のようにずどんと固く重くなり、床に落ちてだらしない。
私はなるたけきつく、その縄で自分の手足を縛りつける。このまま返事をださずにいたら、あなたはかろやかに達する。
どこへ。
恋人の匂いだ。鼻先を恋人の言葉が掠めたのだ。
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