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 帰り道に煌々と、一軒の夜店がでていた。小綺麗とはいえないような婆さんが、ひとりで店番をしている。

 何屋だろう、と横目で伺うと、ぼんやりとスルメをしがんでいた婆さんが、バシンと私の顔面に飛びついてきた。老女離れというよりももはや、人間離れしたその動作の素早さに、回避する余裕は全くなかった。

 一瞬、婆さんが私の顔に貼りついてきたかのように感じたが、彼女は売りものである面を私に被せてきただけらしい。

 すまんことをした。

 婆さんは特に申し訳なさそうな素振りも見せずに言った、あんたの顔が大層うるうるとしていて、よく面に馴染みそうだったからさ。

 指先で面のおもてに触れてみたが、その形状が何故だかちっとも頭にはいらない。

 婆さんは満足そうに、やせた歯茎をむきだして笑う。私は、おかめとかひょっとこだったら嫌だな、とはおもうが、それほど困ったというわけではなかった。

 

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