蜘蛛の糸
ひらりと君が、目の前を横切ってゆく。
君のハネが震わせた空気に、キラキラと光が散る。一緒に行こう、と君は私を誘った。遠くまで。
ハネを持たない私は、ただぶらぶらと風に揺られてそこにいた。畳み掛けるように君は言葉を重ねるが、私がどうすればその場所に行けるのかについては、何も言うつもりはないようだった。
私の流した糸が、風に煽られて君に届く。
君が少しだけ怯えるのが解った。私はそのからだを縛り、あしを絡め、ゆっくりと確実に、君を繋いだ糸を手繰る。
恨みごとを言うかともおもったが、君はかすかに息を吐いただけだった。
力なく開閉を繰り返す、まだ自由なハネを私は踏み躙る。柔らかなハネが落ちる。風に吹かれて君が乾からびてゆく。
私のからだは、君が散らしたあのこまかな光を浴びて、ひとりでに輝きだしてしまう。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント