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結び目

 出来心だったのです。

 愛らしいような、つめたいような、濡れたような目をしたへびは言った。そのカラダはぐるぐると、別のへびのカラダと絡みあっていた。

 ほどいてもらえませんか、と声をかけられたのは、近所の堤防である。水辺のつよい風が、私達のあいだを吹き抜ける。

 苦手なのよ、へび。

 失礼を承知で言ってはみたが、やはりしおらしくなったへびを見て、胸が痛んだ。

 抜き差しならなくなって、手を伸ばす。へび達はくすぐったがってころころ転がる。皮膚の触れあうところから、しゃらしゃらと鱗の鳴る音がする。

 あんたたちも努力してよ。

 懸命になればなるほどに、私の指がすべって、へびは固くちいさく結ばれていってしまう。

 ゆうべ、爪を深く切りすぎたせいだ。

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