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アルデンテ

 魔女みたいな気分だわ。

 湯がたぎる大鍋から目を離さずに、彼女が言う。童話にありがちよね。毒薬つくるシーン。

 言葉をみつけられないまま、僕は缶詰をあける。科白を選べば選ぶほど、泥沼にはまる気がした。黙り込む僕を激しく責めたてていた彼女も、いつの間にか不機嫌すら露にしなくなっていた。

 無表情な横顔が、なんでもない風に呟く。

 地獄の釜のほうがいい?

 そこへ飛び込んで終わらせることができるなら、どんなにか楽だろう。僕は、白くぶわりと茹で上がった自分の体を想像する。だらしなく膨らんだその皮膚を。

 彼女はパスタ皿を僕に突きだした。

 今日の作品は過去最高、絶妙の茹で具合だ。そうおもったから、口にだした。その声はしみじみと響いた。彼女が顔を伏せて笑う。眉間を不自然にゆがめて。

 黙々と、僕らはフォークを動かした。

 彼女の茹でたパスタが、嚥下のたびに僕の臓器に絡まって、締めつけてくるのが解った。どこまでも深く深く根づいてゆく。

 僕はつい、息を吐いた。彼女が泣いた。

 

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