唐草
変化に気付いたのは、2ヶ月も前のことになる。左薬指の先に、ちいさなにきびができたのだ。
気にはなるものの放っておいたら、ある日そのにきびがぽつりと芽を吹いた。驚いて、以前花屋に勤めていた事のある友人に相談するが、相手にされない。抜くのも痛そうなので、とりあえず根元から鋏をいれ、その場を凌いだ。
以来、私は無性に水分を欲するようになった。植物はするすると早緑色のほそい茎を伸ばし、薬指を伝ってどんどん勢力を増してゆく。湿気をはらんだ青い匂いが私を包み、体の左側が始終蒸し暑い。私は花鋏を持ち歩き、手入れを続けたが、とうとう根負けして持て余してしまった。
そんな日々が過ぎ、私はその人に出会った。そこは飲み屋で、私は周囲の注目をあびて、がぶがぶと杯を干しているところだった。
飲むほどに育つよ、とその人は言い、生い繁った葉と葉のあいだから、その声は滑りこんできた。ただ恥ずかしく、縮こまる。
小気味よい音をたて、その人は私の植物を剪定してくれた。美しい指だった。
絡めとりたい。植物がさざめいた。
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