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やさしい

 夫は線のように細い目をして笑う。ぽってりとした瞼には、まばらに眉毛が生えている。夫はいつでも甘い言葉を私に与える。傍にいる間じゅう、私の体を撫で回しながら臆面もなく口にする。

 一般的に、世間の夫たるものは妻にやさしくないものらしい。

「やさしいご主人でしあわせね」

 色白で、いつもいい匂いがする隣の家の主婦にも、前にそう言われた。だが、美しい女性につめたい男がいるなんて、私は信じられない。そして醜い女を手元におく夫も。

 結婚以来私はますますふとった。指輪もすでに嵌らない。飾りのないむくんだ指を包む夫の掌は、頼りなく薄っぺらに見える。

 日常のすべてを放棄して、私はひたすら夫の睦言を貪り続けている。2人のベッドを占領するまでに肥え拡がってしまった私を、夫は安らかな表情で慈しむ。

 私は時々ぼんやりとおもう。ここ以外の場所のことを。その思索を塞ぐように、夫の息が耳にかかる。幸福。幸福。幸福。

 ぶわぶわとたるんだ皮膚がシーツの上を滑りおちてゆく。

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