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ロケット男爵

 コンビニからの帰り道、ロケット男爵に出会った。

 そんなつもりはなかったのだが、つやつやと光る腕がものすごく私好みな形だったので、ついつい連れて帰ってきてしまった。

 私は親元で暮らしている。両親に男爵を紹介しようかとも考えたが、父はあまり機械の類を快くおもっていない。結局、見つからないように男爵をシャツの中に抱いて部屋へ入った。ぴとりとした感触と冷たさに、全身の皮膚が粟立つ。予想以上に持ち重りのするカラダだった。 

 一応お客なのだから、とお茶をだしてみる。お構いなく、と男爵は言った。いい茶碗だ、しかし本当に粗茶ですね。

 弁えたひとだと感心し、あけすけなヤツだと考え直す。ロケットとは大抵失礼なものなのか、それとも爵位がそうさせるのか。

 流れるように抱き合ったそのあと、男爵は黙って立ち上がった。そしてさっさと帰り支度をはじめてしまう。引き留めたくて、私は男爵の肩を甘噛みする。チリチリと音がした。

 次会うときには、新茶買っときますよ。

 私の言葉に、男爵はひっそりと笑った。

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